ビートルズ (新潮新書)
ビートルズ (新潮新書)
おそらく本書が他のビートルズ本と決定的に違うのは──他を読んでもいないくせにこんなことは言えたモノではないのだが──、著者ならではのグローバル・ミュージック的なアプローチによって、21世紀の現在からビートルズを捉え直している点にある。その現在とはブラック・ライヴズ・マター以降の現在であり、インターネット普及後の現在でもある。インターネットによって古いものは古くなくなり、若いロック・ファンは同世代の新譜よりも90年代のオアシスに夢中になる。悪酔いしそうなほどすべてがフラットに広がる“イエスタデイ”を喪失した現在。時間の感覚も歴史感覚も20世紀とは何か違っている。 本書『ビートルズ』が試みている「世界史のなかのビートルズ」という視点は、時代(60年代)からも場所(リヴァプール)からも完璧に切り離されてしまっているビートルズをもういちど汗だくのキャバーン・クラブのステージに上げ、労働者で賑わう港町を徘徊してもらうばかりか、それ以前からあった、彼らが生まれ育った環境から聞こえる音楽、つまり大衆音楽の大いなるうねりのような、いわばその大河へと案内する。その大河とは、昼も夜もない眩しい現在という光に隠されて、もはやあまり語られることもないかもしれない大切な過去のことであろう。
1970年のグループ解散から数えて、すでに半世紀。にもかかわらず、いまなおカリスマ性を失わず、時代、世代を越えて支持され続けるビートルズ。いったん頂点に上り詰めても、たちまち忘れ去られるのが流行音楽の常なのに、なぜ彼らだけは例外なのか――。世界各地のポピュラー・ミュージックに精通する音楽評論の第一人者が、彼ら自身と楽曲群の地理的、歴史的ルーツを探りながら、その秘密に迫る。
目次
はじめに
序章 なぜビートルズだけが例外なのか
労働者階級/自作自演/世界で10億枚/変化し続けたグループ/「一過性」から「歴史」へ/政治的発言/前例のない文化現象
【1】故郷リヴァプール
「マギー・メイ」「ペニー・レイン」をめぐる章
田舎者扱い/植民地貿易の拠点/奴隷貿易による繁栄/メルヴィルとモービー/イギリス初の鉄道/ビートルズの青銅像とゴレー通り/空襲による衰退/リトル・アメリカ
【2】ジョン・レノンはアイルランド人か
「マイ・ボニー」「悲しみはぶっとばせ」をめぐる章
U2ボーノの発言/トニー・シェリダン&ザ・ビート・ブラザーズ/ドイツから取り寄せた25枚/民族と宗教/4人のルーツ/ベルト・ケンプフェルト/レイ・チャールズへの憧れ/ボニーとは誰か/ロッド・スチュワートとスティング/アイルランドの音楽/ボブ・ディランの影響/新天地ニューヨーク
【3】ミンストレル・ショウの残影
「ミスター・カイト」「フリー・アズ・ア・バード」をめぐる章
ジョン・レノンの祖父の経歴から/ブラックフェイス/イギリスでも流行/混血のサーカス団長とミスター・カイト/奴隷解放と黒人霊歌/ミュージック・ホール/BBCのミンストレル・ショウ/バンジョーを弾いていたジュリア
「レディ・マドンナ」「ハニー・パイ」をめぐる章
手作りの楽器を使い演奏/南部からシカゴへ/ロニー・ドネガン/エルヴィスにはなれなくとも/ジョンとポールの出会い/バディ・ホリー調/ブギウギ風のピアノ 【5】作品の源流はどこに?
「ティル・ゼア・ウォズ・ユー」「イエスタデイ」をめぐる章
あらゆるタイプの音楽の影響/両親も気に入る曲を/ジョンもロック一筋ではない/「バス内の合唱」はロック以外の曲/「ポップ」の定義とは/ジャズ、R&B、カントリー/ビートルズ登場前夜/ロックンロールとロックの関係
【6】カヴァー曲、R&B、ラテン音楽
エルヴィスが壊した人種の壁/ジョージの「早熟」「通」/リトル・リチャード以後/黒人音楽のカヴァーの多さ/単なる模倣を超える/消えた「べサメ・ムーチョ」/キューバ音楽「ソン」の影響/ラテン系リズムのヒット曲/音楽の歴史のうねり/「アイ・フィール・ファイン」もラテンだった
【7】カリブ海、アフリカとの出会い
大戦後に激増した移民/カリプソ歌手たち/スティール・ドラム/ハンブルクへの道/年齢詐称の入れ知恵も/舞台はマンチェスター/ジャマイカのリズム「スカ」/アイランド・レコード/ライフ・ゴーズ・オン/3度のレコーディング/ジャンルとして定着
【8】60年代とインド音楽
「ノルウェーの森」「トゥモロウ・ネヴァー・ノウズ」をめぐる章
ロックの定義の更新/コーナーショップ/『ヘルプ!』に登場したインド人/何でもあり/『チベットの死者の書』/狂気を通訳したジョージ・マーティン/ラヴィ・シャンカルに弟子入り/ワールド・ミュージックの先取り/インド行き/ゴッドファーザー、ラヴィ
【9】ふたつのアップルの半世紀
係争を繰り返した両者/モノクロからカラーへ/完成までに5週間/オリジナリティと創造性/強い共感/空想は現実より素晴らしい/「ビジネスの手本はビートルズ」
【10】ビートルズはなぜ4人組か
ハンブルクでは5人組/電気的なサウンド/放送禁止された「危険な」エレクトリック・ギター/電気エネルギー時代の象徴/既成の価値観が問われた時代/「彼らはお互いに属している」/青春物語の終わり/ヴァーチャルなバンドと幻の聴衆
おわりに
主な参考文献
https://gyazo.com/dd6eddb2672a113e757e30e0d23eaffb